蝶の翅を平面的に整形する一般的な標本ではなく、また単に蝶の標本を立体的に展示したものでもなく、ここでいうドライバタフライとは、
” 実物の蝶を、自然状態で活動している姿に整形し乾燥させたもの ” です。
言わば、生態の再現です。
花に例えると、押し花のような標本ではなく、自然の姿のまま乾燥させるドライフラワーに近いことから、
”ドライバタフライ” と名付けました。
ドライバタフライの作成にあたっては、各種の蝶の習性を意識した上で、翅だけでなく脚、触角など細部にまでこだわり、生態の再現を目指しています。
モンキチョウの標本
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モンキチョウの生態写真
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一般的な標本は実物ですが、生き生きとした蝶の姿ではありません。
逆に生態写真は、生き生きとした蝶の姿をいくら上手く撮っても、やはり実物ではない画像です。
ドライバタフライは、標本でも生態写真でもない、別の意味を持った鑑賞の対象と言えるかもしれません。
タイトル: | カップル不成立 |
作成個体: | 上・モンキチョウ♂ (2017.3.17 京都府城陽市 採取) |
下・モンキチョウ♀ (2017.3.23 京都府城陽市 採取) | |
モデル生態: | 飛来した♂に対し、腹部を上げて求愛拒否する静止中の♀ |
自己評価: | A・B・C・D・E |
初めての作成にしては上手く仕上がった作品だと思います。
特にこだわったのは、飛翔中の♂の脚の縮め具合と♀の腹部の上げ具合です。
不満を挙げるとすれば、♀腹部が乾燥した際に変形したことですが、これは複眼の変色とともに抗えないところでもあります。
これらをいかに目立たないように作成するかがこれからの課題です。
自己評価はAとしたいところですが、上記の不満と♀後翅の欠けによる見映え、今後の事も考えてBとしました。
タイトル: | 領空堅守 |
作成個体: | ヒメアカタテハ♂ (2017.4.4 京都府城陽市 採取) |
モデル生態: | テリトリーを張りスクランブルに備える♂ |
自己評価: | A・B・C・D・E |
タテハチョウですから体を支えているのは中脚と後脚の4本。 しかし、緩んだ前脚の脇を締めるため、結局6本を整形しています。 また、触角の角度には気を使いました。 形としてはほぼ思い通りに仕上がった作品ですが、B評価にしたのは見映えによるもの。 写真では分かりにくい傷や、胸部背面の体毛が剥げてしまったこと等、細かい部分で少々ミスがあります。
2000年代に入ってから、カメラの進歩やインターネットの普及にともなって、蝶を撮影する人が明らかに増えています。
現在、蝶の愛好家のうち、撮る人の割合はどれくらいになっているのでしょうか。
私は撮影をメインにしていますが、場合によっては採集もしますので、どちらも楽しんでいる人間です。
そして、ドライバタフライの制作は、実物の蝶を捕獲しなければ始まらず、また細部の整形は生態写真をモデルにしていますから、採集・撮影の両方を必要としています。
言い換えれば、ドライバタフライは採集・撮影が融和して出来上がったものだとも言えます。
ドライバタフライの持つコンセプトは、「” 採ること ” と ” 撮ること ” の融和」です。
ここでは、採集者を拒むことも、撮影者を疎むこともありません。
ただ、このドライバタフライは、従来の標本コレクションには加えにくく、比較検討には向きません。
また、採集に抵抗のある方には理解されにくいと思います。
その意味では、蝶愛好家の方にはむしろ受け入れ難いものかもしれません。
そして今までにも、ドライバタフライのようなものが展示された事はあるかもしれませんが、
それが世間一般に広まっているとは思えませんし、また作り方のようなものも見たことがありません。
しかし、採集・撮影の両方を肯定することで、こういう蝶の楽しみ方もあるということが、このページをご覧頂いた方に伝わればいいなと思っています。
タイトル: | 吸蜜後の一休み |
作成個体: | クジャクチョウ♂ (2017.8.10 長野県諏訪郡 採取) |
モデル生態: | 地表に降りて開翅する♂ |
自己評価: | A・B・C・D・E |
新鮮なクジャクチョウというだけで見映えがしますが、形もほぼ思い通りに仕上がった作品です。 前の2作品に比べると整形しやすい形だったので、作成の難易度は高くないものの、特に不満もなく自己評価はAとしました。 今後はもっと変化をつけたシーンに挑戦したいところです。
タイトル: | 花から花へ |
作成個体: | キアゲハ♂ (2020.4.15 京都府城陽市 採取) |
モデル生態: | 吸蜜のため訪花した♂ |
自己評価: | A・B・C・D・E |
初めて前翅・後翅・触角をそれぞれ別角度に整形した作品です。
前後翅の角度の差をもう少し広げる予定でしたが、狭くなってしまったのが残念です。
とはいえ、ひとまず変化をつけられたのは成功。
ただ、それ以外の部分、腹部・口吻の形が作成前のイメージとかけ離れてしまいました。
また、作成過程で左後脚を欠損、翅に擦れを作ってしまい、自己評価をCとしました。
※ このドライバタフライのようなものは、私が知らないだけで世の中には多く存在しているかもしれません。
定義づけや呼び方については、あくまで個人の楽しみの範囲と捉えて頂きたいと考えます。
また、言うまでもなく蝶は生き物ですから、むやみに作成することをここで勧めているわけではありません。