この年末年始は例年よりも仕事がキツく、体力的、精神的に疲れ果てた。
その代休で自分をどう癒そうかと思っていたが、プライベートまで寒い所へ行ってスノボをしようという元気はなく、かといって温泉というのも何かモノ足りない。
年末に貰ったボーナスもそのまま通帳に入りっぱなしだし・・ということで今年は連休を作って、冬の沖縄へ飛ぶことに決めた。
冬に沖縄を訪れるのは初めてだが、出会える蝶の種類が他のシーズンより少ないのは分かっている。
でも行くなら出会ったことのない種類を狙いたい。
昨年から発生している迷蝶2種は一応ターゲットだ。
他に出会っていない蝶で、冬の沖縄で出会える可能性があるのは・・と蝶の一覧を見て目についたのが、撮影だけでは種類の判りにくい茶色セセリ2種とハマヤマトシジミ。
これだ・・
ハマヤマトシジミ。 以前はこの蝶の記録をあまり目にしないのは、ヤマトシジミのようにごく普通にいるからだと思っていた。 しかしどうやら違うようだ。 何度八重山を訪れても、この蝶にチェックが入らない。 そのうち出会えるだろう・・では出会えない蝶であることが分かってきた。 近年の記録で自分が調べられる範囲では、宮古諸島と南大東島での採集というのがあるが、南大東の方が最近の記録が多い。 よし、南大東へ行こう! でもちょっと行きにくそうな所だなぁ・・ そして、現実になかなか辿り着けない撮影行となってしまったのだった。
2007.2.17
まず、17日の午後の那覇=南大東の直行便が無かったため、那覇=北大東=南大東と乗り継ぐ便を予約したが、直行便と乗り継ぐ便が同じ料金で行けるという事を知らずに手間取った。
(インターネットではそれが表示されておらず、乗り継ぐ便それぞれを別々に予約し、高い料金で精算してしまった。
後に旅行雑誌を見ていて気付いたので、JAL予約センターで訂正してもらった。)
それから、JALの朝の那覇行が取れずにANA便を予約したが、北大東への乗り継ぎ時間が規則ギリギリの30分。
危ういなぁ・・と思ったが、不安が見事に的中し、伊丹で出発20分遅れのアナウンス。
到着は40分遅れで乗り継ぎ失敗。
初日に南大東に着くのは不可能になってしまった。
那覇空港では、ANAのお姉さんが待機していて、当日のホテル宿泊券とホテルまでの往復交通費、夕食代をいただく。 こんな事までしてくれるんだ・・と勉強にはなった。 そして手荷物を受け取る。 とりあえず中に着ているタートルのセーターを脱ぎたいなぁと思いながら、半袖のシャツを着たお姉さんに付いて行き、JALの窓口で翌日の南大東行き午前便への変更手続きをしてもらった (料金はそのままで)。
あ〜ぁ・・。 でも一泊浮いたし、半日天気が悪かったと思えばいいか・・と気を取り直し、初めて乗る『ゆいレール』でホテルに向かい、チェックイン。 部屋でボ〜としてるのもなんなので、久しぶりに那覇の国際通りを歩く事にした。 そして夕食後、気になった店に立ち寄っているうちに、綺麗な琉球ガラスのグラスが並んでいる店を見つけた。 キレイだなぁと思いながら手に取り、まじまじと眺めていると、だんだん欲しくなってくる。 ガラス自体はそんなに高級ではなさそうだが、色が綺麗なのだ。 結局、グラス一つ買ってしまった。 一泊浮いても買い物してたら一緒やな・・そう思いながら部屋に戻り、買ったグラスにオリオンビールを注いだ。
2007.2.18
朝、空港に着くと、南大東行の表示は『天候調査中』。
何それ?
搭乗手続きの時に、「欠航するかどうかは9時に決まります」と言われた。
勘弁して〜。
南大東島を前線が通過するらしい。
欠航なら、南大東をあきらめて一日早く石垣島へ向かおうかとも考え、頭の中で予定を組み替える。
結局、便は30分遅れで何とか飛んでくれた。
10人ほどが乗ったプロペラ機は無事に南大東に到着。
旅館の送迎のおじさんに声をかけると、「あぁ、昨日飛行機に乗り遅れた人ですね。」
とニコッとされたので、なんかニュアンスが違うんだけどなぁと思いながら、ニコッと「そうです。」と答えておいた。
部屋に荷物を置いた後、さっきのおじさんに、「この辺で自転車かバイク借りられる所ありますか?」と尋ねると、「そこにあるの乗っていったら?」
と言われたので、早速そこに止めてあった自転車に乗って出かけることにする。
さぁ、ハマヤマト見つけるぞ〜っと、道端や荒地ばかり見ながら、脇見運転で自転車を流す。
そして走り始めて5分も経たないうちに、一頭のシジミが荒地の地面スレスレを飛んでいるのが目に入った。
草に止まるのを待って、撮影する。
「ハマヤマト・・かな・・??」
こうなる事は予想していた。
実物を見た事がないため、翅裏の斑紋がハッキリと現れていたり、翅表の色合いを並べて見比べたりしないと、ヤマトシジミやシルビアシジミと区別がつかないのではと思っていたのだ。
だから今回は携帯用のネットを持参していて、撮影だけで判らない蝶はそのまま採集することにした。
この荒地で2頭撮影、採集した後、さらに自転車を走らせていると、いい感じの空地を見つけた。
その空地には、地元で見るものと同じくらい大きく、白っぽい色合いのヤマトシジミが何頭も飛んでおり、先ほど撮影した蝶とは明らかに違っている。
さっきのはハマヤマトの可能性が高くなったな・・と思いながら空地を歩き回ると、ヤマトシジミに混ざって小型のシジミも何頭か飛んでいるのが目に入った。
しかし曇天で風があり、翅を閉じて止まるため、翅裏の撮影ばかりになったので、何頭か撮影、採集してから、宿に戻って確認することにした。
部屋に戻り、三角紙に書いた番号と撮影画像を照らし合わせながら、採集した蝶を比較してみる。
すると、うまく3種類の♂が撮れていたようで一安心。
ハマヤマトらしき♀も混ざっていた。
♂はそれぞれ翅表のブルーの色合いが違い、翅裏の斑紋も違っている。
撮影時にはわかりにくいが、3種を並べると判りやすい。
無事にハマヤマトの撮影ができていたようだ。
(上の写真は後日撮影したもの。左から、ヤマトシジミ、シルビアシジミ、ハマヤマトシジミ。)
とりあえずの目的は果たせたが、日暮れまでの間、また違うところを自転車で流してみる。 途中、ウスイロコノマらしき姿を見かけたので追いかけたものの、藪に逃げていって見失ってしまった。 そうこうするうちに雨が落ちてきたので宿に引き返し、撮影した画像を改めて確認しながら、缶ビールを開けた。
2007.2.19
今日は朝から晴天。
夕方のフライトまで時間はたっぷりあるので、帰りの送迎の時間を確認して荷物を置かせてもらい、また自転車を借りる。
今日は海岸の方まで行ってみよう。
しかし宿から近い方の港に着いたものの、蝶がいるような雰囲気ではなく、海岸沿いの道路を流すことにする。
途中、リュウキュウアサギマダラやタイワンクロボシシジミを撮影し、やがてまた海岸に下りる道が現れたので下ってみることにした。
この辺りの海岸は岩というか崖というか、波が打ちつけていて海には入れない。
とりあえず写真を撮って戻ろうとすると、コンクリ道の上をハマヤマトらしき蝶が飛んでいるのが目に入り、カメラを構える。
追っていると、割とたくさん飛んでいることに気が付いた。
下りは自転車に乗ったまま一気に下ったので気が付かなかったようだ。
ここではヤマトシジミも混ざって飛んでいたが、ハマヤマトの方が数が多く、また、すぐに止まって翅を広げてくれる。
日光に当たると、紫がかったブルーが渋く輝き、美しい。
コンクリ道の上に止まって翅を広げるシーンが多く見られ、また、花にも止まってくれた。
やがてそこそこ満足のいく撮影はできたが、ひとつ引っかかるのがハマヤマトの♀である。
明らかに大きさとか翅表のブルーの出方とかで判断できるものはいいとしても、やや大きかったりブルーが広く出ていたりすると、ヤマトシジミ♀との違いがわからない。
裏面を見てシルビアではないことは判るが、はっきり区別のできるヤマトシジミの♀を見つけられなかったのだ。
もしかすると、翅表のブルーが判断材料になるのかもしれないが、この地方のヤマトシジミ低温期型の♀の標本が見てみたい。
やがて昼も回ったので、雑誌で見て気になっていた『大東そば』を食べに行く。 麺は極太でインパクトがあり、味はサッパリしている。 食べていると、ネットを持ったおじさんが店に入ってきたので、「蝶ですか?」と話しかけてみた。 関東から来られたようで、この島は二度目だそうだ。 シルビアを撮影した事を話すと、「ここじゃハマヤマトより貴重だ。」と、撮った場所を尋ねられたので案内したが、自分にとっては、もっと貴重な情報を教えていただいた。 それは西表島で発生している迷蝶の情報で、○○の建物の前の○○の周辺の、○○色の花を目当てに探せばその辺りにいるらしい、という細かな情報だった。
そう、自分はこの時点でも、まだ翌日の石垣島での予定を全く決めていないのだった。 出会える可能性のある迷蝶2種は、それぞれ石垣島と西表島で昨年から発生しているが、現時点でもいるのかどうか分からず、場所も地名程度しか分からない。 そして、午後のフライトまでに両方探すのは無理っぽい。 どちらを狙うかは、いわば賭けの状態だったのだ。
夕方のフライトは30分遅れで出発。
那覇での乗り継ぎ時間は40分だから余裕だろうと思っていたが、再び不安がよぎる。
飛行機を降りるとすぐに名前が呼ばれ、自分のために用意されていたバスに乗り込む。
そしてそのまま乗り継ぎカウンターの下まで送ってもらい、直接石垣行きの搭乗口へ向かう。
あ〜今度はセーフだった。
やれやれ・・と飛行機の中で、南大東の空港で買った『大東寿司』を開ける。
確か同じ寿司が10個ほど入っていたと思うが、今まで食べた事のないような味の寿司で最高に美味く、すぐに平らげてしまった。
これは、ぜひまた機会があれば食べたいと思った。
2007.2.20
朝起きると小雨が降っている。
天気予報で雨だという事は前日からわかっていたが、狙う蝶がいるらしきポイントは分かっているので、傘を差しながらでも探すつもりだ。
早朝の高速船に乗り込み、西表島へと向かう。
教えていただいたポイントへ着いたのは8時半。
幸いまだ雨は降っていない。
「さぁ、探すぞ〜」
狙う蝶はタイワンヒメシジミ。
驚くほど小さいらしい。
しかし思っていたよりもポイントの範囲は広大だった。
道端や農道の脇を見ながら、蝶の姿や目安となる花をひたすら探し続ける。
そして歩きまわって一時間半ほど経った頃、「いたっ!」やっとこの蝶がチラチラと飛ぶ姿を発見できた。
飛び方から蝶だということは分かったが、確かに小さい。
止まっている時に自分の親指と比較してみたが、爪の半分くらい。
昨日まで撮影していたハマヤマトシジミも小さいなぁとは思っていたが、明らかにそれ以上小さい。
しかし、液晶画面をのぞいていると、後翅の縁の模様はなかなか見栄えがあって美しい。
かなり接近して何度もシャッターを切ったが、おとなしくモデルになってくれていた。
時刻はもうすぐ11時になろうとしている。
これからどうしようか・・石垣島に戻ってもう1種を探すには時間の余裕がないし、天気も危うい。
とりあえず、いつも立ち寄る林道へ向かうことにする。
この時期に訪れるのは初めての事なので、様子を見るのも面白そうだ。
林道の入口でタクシーに降ろしてもらい、奥へと進んでいく。
歩き慣れた林道を進むにつれて驚いたのは、この時期だというのに蝶の数の多いこと。
ここでは当たり前なのかもしれないが、視界には必ず蝶の舞う姿が入ってくる。
いいなぁ〜と幸せを感じながらブラブラと歩く。
ヒメアサギマダラやカラスアゲハを撮影しながら進んでいくと、以前、秋に出会った時よりも大きめのリュウキュウウラボシが花に止まっているのを見つけた。
そっと近づいて撮影する。
他にもいろんな蝶が飛んでいたので、撮影を楽しむ。
クロアゲハ、クロテンシロチョウ、クロセセリ、コノハチョウ、ツマムラサキマダラ・・・
そして忘れてはいけないのが、まだ未撮影の茶色セセリ2種。
これは撮影してからネットして種類を確認しないとわからないが、一回だけシャッターを切った茶色セセリはネットする前に飛び去ってしまった。
それにしても、よく雨が我慢してくれたものだ。
タイワンヒメは雨中でも見つけて撮影したいとは思っていたが、他の蝶たちがこんなに撮影できるとは予想していなかった。
帰りの高速船の中で、撮影した蝶たちの画像を改めて確認しながらニヤニヤする自分がいた。
帰りの石垣空港の出発ロビーでは、いつものように缶ビールを開ける。
離着陸する飛行機を眺めながら、今回の遠征の成果をかみしめ、そして寒い京都へ帰る寂しさを紛らわす。
やがて今回の遠征を振り返っているうちに、フッと考えがよぎる。
・・南大東であんなに飛んでいたハマヤマトも、いつか八重山のように見られなくなってしまうのでは・・
見たことのない迷蝶が外国から飛んでくるのは楽しみだが、もともといた蝶がいなくなってしまうのはやっぱり寂しいものだ。
今回の遠征で新しく出会ったシジミチョウ2種の画像を見ながらそう思った。