2004 気まぐれ蝶紀行

西表島・石垣島


  2004.10.24

 秋が訪れ、地元で見られる蝶の種類も少なくなってくると、まだ暑い日差しの下で飛び回る沖縄の蝶に会いに行きたくなる。 そして、特典航空券を使うとはいえ、夏のシーズン後のさらなる出費は苦しいが、何とか今年も秋の八重山行きを叶える事ができた。 今回訪れるのは西表島と石垣島。 西表島では最近、ヒイロシジミという標本でも見た事のない蝶がポツポツ採れたらしく、また石垣島ではホシボシキチョウが発生しているらしい。 心配していた台風は順調に八重山に近づきつつあるが、それ以上に期待は膨らんでいる。 ということで、まだ見ぬ蝶との出会いを求めて、いざ出発!

 伊丹空港で駐機場のバスに座っていると、スッと前に立ったお兄さんが手にしている航空券には、イシダヤスシと書いてある。 ・・・えっ、と見上げるとやっぱり石田靖さんだった。 その後、飛行機では斜め後ろの席、西表島への高速船では少年と一緒に後ろの席に乗ってこられたので、「ナイトスクープの取材か何かですか?」と話しかけてみると、 「えぇ、この子がテナガエビ採りたい言うんですわ。」と、気さくに答えていただいた。 「ダイビングですか?」と逆に聞かれたので、「いえ、蝶々撮りに行くんです。」と答えると、「このお兄さん蝶々撮りに行くんやって。」と隣の少年と話しておられた。

 やがて西表島に着き、宿でレンタカーを借りて、いつも訪れる林道に向かう。 台風24号が迫っていて風が少し強いが、幸い雨は降っていない。 この林道でヒイロシジミが何頭か採れたらしいが、自分のとりあえずの狙いはリュウキュウウラボシシジミだ。 この林道にいるはずだが、相性が悪いのか、なかなか出会えないままでいる。
 林道を進んで行くと、いつも見かけるタイワンキチョウやスジグロカバマダラがたくさん飛んでいるが、これらは意外と今までに撮った写真の枚数が少ない。 見慣れてしまってあまりカメラを向けないこともあるが、いざ撮ろうとカメラを向けると、なかなかジッとしてくれず時間を取られてしまう。 そして結局、時間がもったいなくて先へ進んでしまう事になる。 しかし今回は、いつも見られる蝶以外には特に変わった蝶は見かけず、リュウキュウウラボシも、いそうな場所をウロウロしてみたが出会えなかった。

 雲も厚くなってきたので林道を引き返し、昨年ヒメウラボシシジミと出会ったポイントを覗いてみる事にする。 昨年は、ネットした後にこの蝶だと分かったので撮影できなかったのだ。 今年も見られるかなぁと付近をウロついていると、辺りを飛んでいるタイワンクロボシとは違った飛び方をしている本種を一頭だけ発見。 薄暗い林縁を踏み分けながら目で追い、止まったところを何とか撮影できた(写真)。 結局、これが遠征初日の一番の成果となった。
 ちなみにこの日、撮影できた蝶は他に、ツマムラサキマダラ、タテハモドキ、ヤエヤマカラスアゲハ、ヒメアサギマダラ、クロテンシロチョウ、ネッタイアカセセリ、ヤクシマルリシジミ等々。 何頭か見られたキタテハは、この島では迷蝶だと認識していたが、撮影はできなかった。


  2004.10.25

 昨夜は強い風の音で何度か目を覚ましたが、朝起きてみると雨も降っているようだ。 あーぁ、今日は撮影は無理だなぁ。 予想はしていたものの、やはりがっかりだ。 テレビで台風の情報を見ようと思ったが、どのチャンネルも出発前から発生している新潟中越地震の情報が続いている。 結局この日は、その中継を見たり、宿に置いてある雑誌を見たりして一日を過ごす。 今回で7度目の沖縄遠征になるが、雨風のせいで昼間に宿で過ごすのは今日が初めて。 その方が珍しいのかもしれない。


  2004.10.26

 台風は昨日抜けたはずなのに、朝から風が強く、どんよりと曇っている。 西表島には明日まで滞在する予定なので、あちこちを見ておきたいと思い、朝一に島の反対側まで車を走らせて、ポイントに立ち寄りながら宿まで戻って来る事にした。 最初に訪れたシロウラナミシジミのポイントでは、一頭だけ見つけて撮影できた。 ただ、飛ぶ時に見せてくれる美しい水色の翅表を撮れたらいいなぁと思うが、ウラナミシジミのように翅を開いて止まる姿を見た事がない。 やっぱり飛翔時の撮影にもチャレンジした方がいいかな・・来シーズンまでに少し勉強しておこう。

 それにしても天気が悪い。 少々の雨ぐらいはいいが、風が強いと撮影は難しい。 それでも蝶のいそうな所を見つけては車を止めて立ち寄ってみる。 各地で新鮮なナミエシロチョウを見かける他は、スジカバが多く、あとは飛んでいる蝶自体が少ない。 最後にまたリュウキュウウラボシ狙いで昨日の林道を訪れ、傘をさしながら粘ってみるが、やっぱりダメ。 天気も回復しそうにないので、少し早いが宿に戻ってシャワーを浴びる事にする。
 この日撮影できたのは、シロウラナミ、ナミエシロの他に、ルリウラナミシジミ、ヒメアサギマダラ、ベニモンアゲハ等。 ベニモンアゲハの撮影に成功して、日本にいるアゲハチョウ科の種類を一通り撮影できたのが今日の成果かな。 写りは今一つだったけど。


  2004.10.27

 今日は西表島の最終日。 気合いを入れて撮影に出かけたいところだが、またしても天気が・・。 風があって、昨日よりも見る蝶が少ない感じだ。 とりあえず雲の明るい方へと進み、ポイントに立ち寄ってみるが、あまり状況は良くない。 予定では夕方遅く石垣島へ渡るつもりだったが、これじゃもう今から石垣に渡ってホシボシキチョウのポイント探しに時間を割いた方がマシかなと思い、午前中に宿に戻ってレンタカーを返す事にする。 石垣島のレンタカー屋に電話してみると、「空車あります。港まで迎えに行きます。」との事。 そしてこの判断は正解だった。

 どんよりと雲に覆われた西表島が徐々に遠くなり、石垣島が近づいてくるにつれ、すっきり晴れてきた。 港に着くと、少し風はあるが暑い。 やっぱり沖縄はこうでなくっちゃ。 早速、レンタカーの手続きを済ませ、ホシボシキチョウが採れているという場所を目指す。 地名が分かっているだけで、ピンポイントではないが・・。 こういう場合、やみくもにポイントを探して歩きまわるのは時間と体力の消費が痛い。 とりあえずホシボシ狙いの採集者を見つけて尋ねてみるのがいいかな。 そんな御気楽な事を考えながら車を走らせて行くと、少し車道から離れた所で、ネットを持っている人が目にはいった。 車から降りて、「ホシボシが採れているそうですね。」と話しかけてみると、「えぇ。私もすぐそこで何頭か採りました。小さなキチョウですよ。」と答えてくださった。 どうやらポイント近くまで来ていたようだ。 その方に教えてもらった場所は放牧場の一角で、自分がイメージしていた雰囲気とは少し違ったが、とりあえず探してみる事にする。

 放牧場には海からの風が吹きつけているが、アオタテハモドキが元気に飛び回っている。 そして15分ほどウロついた頃、まさに小さなキチョウを発見。 下草を縫うように飛び、たぶんこれだと思ったが、なかなか止まらない。 目で追うが、風に流されかけたので、ネットすることにした。 取り出して見ると、さっきの方に見せて頂いたホシボシの模様と同じだ。 やったー!やっと今回の遠征で初めて出会った蝶が一種増えた。 出会えた事実が残せれば、あとは何とか撮影したいものだ。 しかし、その後ひたすら歩きまわるが、再びホシボシを見つけることはできなかった。


  2004.10.28

 いよいよ遠征の最終日。 ホシボシキチョウのいる場所が分かったのだから、今日は何とか撮影したい。 朝7時になるのも待ちきれず、荷物をまとめて、まだうす暗い民宿のロビーへと降り、精算をお願いする。 「早いですね。どこか行かれるのですか?」と聞かれたので、「えぇ、写真を撮りに行くので・・」とだけ答え、荷物を持ってレンタカーに乗り込んだ。

 ポイントに着くと、今日もいい天気だ。 朝早いこともあってか、幸い採集者は誰もいない。 できればネットを持った人が来る前に、撮影を済ませてしまいたい。 そう思いながら、しばらく歩き回るうち、あっ、と見つけたキチョウはよく見ると普通のキチョウで、昨日のホシボシに比べると少し大きい。 うーん、紛らわしいなぁ。 さらに歩き回り、到着から30分ほど経ったころ、膝の高さくらいを飛ぶキチョウを発見。 これだ!見失わないように目で追いかける。 今日はネット出さないから、頼むから止まってくれー・・・しかしなかなか止まらず、放牧場の脇のアダン(?)の茂みに入ってしまった。
 だいたい止まった所はわかるんだけどなぁ・・3,4メートル先だが、進むにはためらってしまうような茂みだ。 でもこれが唯一のチャンスだったなんて事になれば・・。 意を決して進むことにする。 足を踏み入れると、葉はガサガサと音をたて、トゲトゲがズボンを通して足に刺さる。 茂みは見た目よりも結構深く、カメラを持ち上げて進むと、脇腹まで引っかいてくる。 そして何歩か進んで目をやると、いた!頼むから飛ぶなよ!そーっと手を伸ばし、カメラを近づけてピントを合わせる。 手が震える。 そして撮影。 数枚撮って、さらに近づこうとしたところで、向こうの方へ飛んでいった。

 とりあえず撮影に成功して一安心できた。 でも、できればもっと近づきたいし、訪花シーンも狙ってみたい。 以前は、出会った記録を残すためだけに撮影していたが、最近はあまり標本を作らなくなったこともあって、少しでもいいシーンを残したいと思うようになった。 幸い採集者はまだ誰も来ていないようなので、もう一頭現れるまで粘ることにした。 そして再びウロウロしているうち、2頭目のホシボシが飛んできた。 今度はさっきよりも少し距離をおいて追いかけてみると、下草に止まったり、花に止まったりする姿を観察する事ができた。 止まった花は何種類かあったが、吸蜜時間は短く(近づくからか?)、下草に止まった時の方が撮影するチャンスは多かった。
 しばらくその一頭を追いかけて、ある程度撮影できたので、確認のためにネットしてみると、昨日のホシボシとは少し翅の感じが違っていて、昨日ネットしたのは♀、今日のは♂だったようだ。

 帰りの飛行機までにはまだ十分時間があるので、他の種類の蝶も撮影したくなり、移動することにする。 そして、レンタカーを返すまでに島の各地で撮影できた蝶は、タイワンシロチョウ、ウラナミシロチョウ、ウスアオオナガウラナミシジミ、ヒメウラナミシジミ等々で、コノハチョウも姿だけは見られた。 結局この5日間の遠征で、最も蝶の撮影を楽しめたのが石垣島での最終日だった。

 空港で手続きを済ませ、出発ロビーで缶ビールを開ける。 普段、昼間から酒を飲む事はないが、沖縄から帰る時にはいつもこれが習慣となっている。 成果を祝して・・ と同時に、帰らなくてはいけないという悲しい現実に、いたたまれないが故の一本でもある。
 それにしても、遠征の前半は天気が悪かったとはいえ、5日間を通じて撮影できた蝶は25種類を超え、目撃はそれ以上。 さすがは八重山。 いつ来ても楽しめるフィールドだ。 今回、新しく出会えた蝶は一種類にとどまったが、まだ出会えないでいる蝶が何種類もいて今後も楽しみだ。

・・そして後日、チラッとでも自分が映ってないかなぁと、一応確認のために朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』を見てみた。 空港や高速船のシーンは一瞬映っただけだった。 残念。 そしてあの少年は、しっかりとテナガエビをゲットしていた。


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